
「これで最後にする。諦める前にもう一度だけ挑戦しよう」 そう覚悟を決めて臨んだ。
資金が底をつきかけ、事業の継続が危ぶまれた時期、2024年だった。
マレーシアで「Bee Informatica」を立ち上げ、金融アクセスの改善に奔走してきた。ミッションには自信があったが、投資家からの反応は芳しくない。ただ、なぜ投資家が首を縦に振らないのか。その理由が分からず、暗闇の中をもがくような日々が続いた。
起業初期のピッチ資料は、今振り返ればあまりにシンプルだった。わずか5枚で内容は漠然としており、説得力に欠けていた。当時はそれが限界だと思っていたが、実際には「投資家が何を知りたいのか」という視点が抜け落ちていたのだ。
そんな私を変えたのは、APT Womanというコミュニティでの経験と、数多くのメンターからの手厳しいフィードバックだった。一人で抱え込むのをやめ、とにかく人に会い、資料を何度も作り直した。
未熟だった私を信じてくれた初期のエンジェル投資家の方々には、感謝してもしきれない。その恩に報いるためにも、毎月の株主レターで進捗を報告し続けている。
「数字やスペックだけでなく、実際にサービスを使う人の背景をもっと具体的に描くべきだ」
ある時、メンターからという指摘を受けた。
日本の投資家にとって、マレーシアの小さな事業主は想像しにくい。単に「女性起業家」と括るのではなく、その人がなぜ資金を必要とし、それによってどんな未来を掴もうとしているのか。 「誰のためのサービスなのか」という人物像の解像度を極限まで高め、ストーリーとして語るようにした。すると、投資家の反応が明らかに変わり始めた。
大きな葛藤もあった。当初、私は「女性の支援」をコアに据えていた。しかしVCからは、「女性限定では市場が小さすぎるのではないか」と問われ続けた。
ターゲットを広げることは、自分の初心を曲げることにならないか。 自問自答の末に出した答えは、「ビジネスとして持続可能でなければ、誰も救えない」という現実だった。NGOではなく事業として成立させ、大きな資金を動かす。そのために、性別を問わず「本当に困っている人」へと対象を広げる決断をした。
視座を「中長期的な経営」へと切り替えたことで、私は迷いから抜け出すことができた。現在、顧客の6割は男性だが、金融アクセスを改善するという本質的なミッションの実現ために、むしろ対象を拡大して良かったと考えている。
投資対象として認められるためには、社会貢献の美辞麗句だけでなく、具体的な「収益の道筋」を示す必要がある。 Payment Gateway社との提携案や、法に基づいた金利設定の最適化など、ビジネスモデルを徹底的に具体化した。
資料は5枚から45枚へと膨らんだ。15分という短い時間で、どんな角度からの質問にもデータで即答できるよう準備した。100人近い投資家と会い、同じ指摘を何度も受ける中で、ようやく「市場が求めている形」が見えてきた。
その積み重ねの先に、2024年5月、リード投資家との出会いがあった。
もし、自分のアイデアをうまく伝えられず悩んでいる頃の自分に声をかけるなら、こう言いたい。
「ピッチは、場数と準備でいくらでも改善できる。それは才能ではなく、スキルの問題である」
起業に決まった正解はない。もし行き詰まっているのなら、ミッションが間違っているのではなく、伝え方やアプローチがまだ届いていないだけかもしれない。
新しい出会いを求め、耳の痛い意見こそ取り入れ、視座を上げ続けること。
「仲間がいれば、社会から必要とされる時がくる」
こう信じながら、私はこれからもマレーシアで挑戦を続けていく。
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